第53回宣伝会議賞 チャレンジブログ(グランプリ受賞者輩出)

日本最大規模の公募広告賞「宣伝会議賞」に挑戦する応募者10人のブログ。同企画初となる、チャレンジブロガーからのグランプリ受賞者(今野さん)を輩出しました。

類似点

 今野です。僕は普段芸人として活動していまして、今回はその経験で気づいたキャッチコピーと芸人の仕事の類似点について書こうと思います。

 

 キャッチコピーとお笑いの仕事で一番形式が似ているのは大喜利だと思います。大喜利は共通のお題が出された後、演者固有の答えを出して笑わせようとします。これは宣伝会議賞のように共通の課題が出された後、参加者がコピーを生む作業と類似しています。

 

 ただ最近思うのは大喜利という形式よりも、仕事の中身で似ているなと思うことがあります。

 

 それは「お客さんの気持ちを代弁する」ということです。

 

 コピーライターの場合はクライアントと消費者の2種類の「お客さん」がいると思います。

読んで良いな~と思うキャッチコピーは「確かにそうだ/そう思っていた」という深い納得のような感慨があります(そういうタイプではない優れたコピーもたくさんあると思いますけど)。それはそのコピーライターさんが企業の言葉にならない想いを見つけ出して代弁した結果、消費者と価値観の共有がなされるという事態だと思うのです。

 

 対して芸人の場合、「お客さん」とは目の前のお客さんのみです(テレビだと視聴者やスポンサーやテレビ関係者や番組観覧者など複雑怪奇極まりますが、僕はほとんどテレビ出た経験がないので話をライブに限定させて頂きます)。トークでお客さんが潜在的に思っていることを先回りしてバスっと言い当てると、大きな笑いになります。ネタでも日常生活で見たことある腹の立つキャラクターのツッコミを入れたり、誰もが経験したことあるような気まずいシチュエーションを描き出すと共感の笑いに繋がります。

 

 

つまりどちらの仕事も、「普段言葉にすることはない想いを形にする」、という職能があると思うのです。

 

 

  それを僕は先月末、あるお笑いライブに行くことで体感しました。僕は同じ事務所の先輩のライブを見学することはあっても、お金を払って他事務所主催のライブを観るのは久しくありません。多分5~6年ぶりです。全く知られてない芸人のくせに、マスクなんかして行ったことを恥ずかしく思います。それでも何となく、誰憚ることなくこっそり観に行きたかったのです。

 

 そのライブは何度か上演を重ね、シリーズ化しているユニットコントライブで、今回はベスト版の上演でした。そしてそれは、尊敬している先輩が出るはずのライブでした。ある事情で出演出来なくなったのです。僕は今までそのライブを観たことはなかったのですが、その先輩が一体どういうコントをやっていたのだろうと知りたくなって、観に行ったのでした。

 

  上演中は心地よく笑い、上演後は温かい気持ちになりました。岩盤浴に入っている時の感触と似ているのではないかと思います。じわ~っと気持ちよさが体内を巡るのです。(ただ僕は岩盤浴行ったことないので、全然違うかもしれません)

 

 そして毎回通うお客さんは、思い切り笑うだけでなく、この幸福感を求めているのかなと思いました。小学生の頃の夏休みのような、いつまでも続いてほしい空気が充満していました。最後のコントが終わった後、無情に寂しかったです。

 

 全てのコントが終わると、エンドロールが流れました。出演者の方が1人ずつ集合場所に集まるVTRだったのですが、最後に来た人がフレームの外にいて、その人を皆が中に入るように呼びかけていました。

 

 そのシーンが映りだした時、僕の隣にいた方が堰を切ったようにしゃくりあげました。僕の人生で、あんなに綺麗にしゃくりあげている人が隣の席にいたことはかつてありません。

映像が終わり場内も明るくなると、綺麗にしゃくりあげている人が気になったのか、前の席の方が後ろを振り返ってきました。なぜか僕の方を見てきたので、違います、隣の方ですと言いたかったのですが…ただ僕も涙ぐんではいたのに違いはありません。

 

 僕はお笑いライブを観て感動したことはあっても、感極まったことはなかったので動揺してしまいました。ただ紛れもなく、ネタが観たいからだけでなく、どういう形か分からないけれど何かしらで不在の人に言及してくれないかな、と思っていたことに気づかされました。

 

 そのエンドロールは帰ってきてほしい、という感情を声高に訴えることなく、大好きな人への当たり前の感情として表現されていました。自分もずっとそう思っていたのに、表立って言ってなかったのは自分の感情よりも周りの目を気にしていたのかもしれません。

 

 つまり何が言いたいかというと、そのエンドロールは良いキャッチコピーのように観客の気持ちを代弁し、大勢の心のうちに淀んでいたグシャグシャな想いを昇華してくれた気がしたのです。だからこそ僕の隣の人は、あんなに綺麗にしゃくりあげたのでしょう。

 

 『すいているのに相席』というタイトルのライブでした。観る前はそのタイトルから気まずい空気を笑うネタとか、不条理な空気のライブを想像していました。観終わった印象としては、見知らぬ人と相席したら段々打ち解けて楽しくなり相手が去るのが惜しい、とでも言うような独特の温もりを感じるライブでした。…何か上手い事言おうとするあまり、全然伝わってない気もしますが。

 

  今回の宣伝会議賞のグランプリ作品が、大勢の人が心のどっかで思いながらも言葉に出来ていない想いを代弁するものであったら素敵だなと思います。